深刻化する格差と中間層の「無関心」
近年、日本の経済格差はデータの上でも肌感覚でも顕著に拡大しています。しかし、この問題に対し、自身は貧困ではない経済的に比較的安定した中間層の人々の多くは、関心を示す人は少なく、貧困層への積極的な支援に手を差し伸べようとしない傾向が見られます。
生活困窮者支援事業に従事した際に、また非常勤での行政職員として地方で働いている現在でもそれは強く実感しています。
これはなぜでしょうか?道徳的な問題として片付けるのではなく、中間層の人々が抱える構造的な不安と心理的なメカニズムにその原因の一端を求めることができます。
1.自己責任論の強化と「貧困への恐怖」
まず、中間層が支援に消極的になる最大の要因は、「貧困への恐怖」によるものかもしれません。
日本では終身雇用制度の崩壊や社会保障費の増大により、かつてのような「一度レールに乗れば安泰」という安心感が失われました。中間層の人々は、自分自身もいつ経済的な階段を滑り落ちるか分からないという潜在的な不安を常に抱えています。
このような状況では、「貧困は個人の努力不足」という自己責任論が都合の良い心理的防衛機制として強化されがちです。他者の貧困を「自己責任」と断じることで、「自分は努力しているから大丈夫だ」と、自分の現在の立ち位置を正当化し、安心しようとするのです。これは、貧困を構造的な問題として認識し、自分の問題として捉えることから目をそらすメカニズムが内在しているからと言えます。
2.「相対的剥奪感」による疲弊
中間層、特に下位中間層と呼ばれる層は、「相対的剥奪感」に苛まれやすい立場にあります。自分より少し上の富裕層を見て「自分は十分に持っていない」と感じ、格差に不満を抱くこともあるでしょう。
自分自身が「被害者」であるという意識が強いと、他者(貧困層)を助けるための精神的・経済的な余力が生まれません。彼らにとっての戦いは「富裕層に追いつくこと」「現状の地位を守ること」であり、他者の救済は優先順位が極めて低くなります。

職場で同じ仕事をしても、時給は正社員の半分。資格を取ってキャリアアップ転職のつもりがどうしてこんなことになったの。最近、政府は手取り額アップを推進しようとしているけど、ますます格差は広がるばかり。優遇されてる正社員の人たちはそれが当たり前だと思っているのかなあ~?
3.心理学者が指摘する「公正世界信念」
こうした中間層の態度を理解する上で、心理学における「公正世界信念(Just-World Hypothesis)」が一つの鍵となります。
「公正世界信念」とは、「世界は公正であり、良い行いをすれば報われ、悪い行いをすれば罰せられる」という考え方、すなわち「この世の出来事には必然的な理由がある」という信念です。
社会心理学者メルヴィン・ラーナーが提唱したこの概念によると、人々は世界がランダムで不公平であることを受け入れると不安になるため、無意識のうちに「人々は受けるに値するものを得ている」と信じようとします。
この信念は、貧困者が直面する問題に関心を寄せない、あるいは非難する行動となって表れます。具体的には、経済的に苦しい人を目の前にしたとき、「彼らが貧しいのは、きっと何か悪いこと(努力不足など)をしたからだ」と考え、貧困の原因を被害者自身に帰属させることで、自分自身の世界観、つまり「真面目に生きていれば報われる」という自分の信念を守ろうとします。
構造的な問題への意識変革を
中間層の「無関心」は、冷酷さから生まれているというよりも、むしろ自己の安定を守るための防衛的な心理メカニズムの結果であると捉えることができます。しかし、格差が拡大し中間層自体が薄くなる社会は、最終的に全員の生活を不安定にします。
この悪循環を断ち切るためには、貧困を「個人的な失敗」ではなく「社会の構造的な問題」として捉え直す意識変革が不可欠です。中間層が抱える不安と向き合いながら、「誰もが滑り落ちうる社会」を変えていくための対話と行動が求められています。
弱者が声を上げても何も変わらない社会。多数を占める中間層が一緒になってまずは低所得者の処遇改善を求めないといけない時が来ていると思いませんか?

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