最近、「ステルスマーケティング(ステマ)」が問題になっていますが、私たちの社会にはもっと深刻で、気づきにくい「ステルス格差社会」が1990年代半ばから静かに進行してきました。これは、格差が固定化し、その存在すら意識されなくなる、日本が直面する最も不都合な現実です。
かつて「一億総中流」を謳歌した日本は、なぜこれほどまでに格差が広がり、気づかれにくくなってしまったのでしょうか。その原因を、「政治」「経済・社会構造」「庶民の無関心」の3つの側面から、短く解説します。
1. 政治の無策が生んだ「富の集中」(政治面)
格差拡大の最大の要因は、政治がこの問題に対して有効な手を打たなかったことです。特に、経済政策が富裕層や大企業に有利に働き、労働者への分配が疎かになった結果、富が上層に集中しました。
- 法人税減税の偏り: 企業競争力を高める名目で法人税が繰り返し減税されましたが、その恩恵は主に内部留保や株主配当に回り、賃金には還元されませんでした。
- 富裕層への課税逃れ: 所得税の最高税率は、1980年代には70%を超えていましたが、現在(2025年時点)は45%(住民税込みで約55%)にまで引き下げられています。これにより、高所得者ほど税負担率が相対的に軽くなる傾向があります。
- 世襲政治の継続: 国会議員における世襲議員の割合は、自民党で特に高いことが指摘されています。親や祖父母が議員である議員が国会を牛耳ることで、既得権益層に有利な政策が維持されやすく、真の構造改革が滞る原因となっています。
2. 「非正規化」による社会構造の変化(経済・社会構造面)
日本型雇用システムが崩壊し、企業のコスト削減のために非正規雇用が激増したことが、所得格差を決定的に広げました。
- 非正規雇用者の激増: 1980年代には約15%だった非正規雇用労働者の割合は、2020年代には**約37%(約2,100万人)**にまで上昇しています。
- 所得の中央値の低下: 厚生労働省のデータによると、世帯所得の中央値は、1990年代半ばをピークに低下傾向にあります。これは、高所得層の富が増えても、ボリュームゾーンである庶民の収入は減り続けていることを示しています。
- ジニ係数の上昇: 所得格差を示す国際的な指標である**ジニ係数(当初所得)は、日本では一貫して上昇傾向にあります。これは、「格差が拡大し続けている」**ことを統計的に裏付けています。
この「非正規の壁」により、正規雇用の安定した生活を手に入れられない人々が大量に生まれ、努力だけでは這い上がれない「固定化された格差」が生じています。
3. 格差に対する「庶民の無関心」(無関心・意識面)
ステルス格差社会が最も怖いのは、多くの庶民がこの問題に対して無関心であることです。
- 低投票率: 政治への無関心は、特に若年層で顕著です。直近の参議院選挙の投票率は、20代で30%台と非常に低く、最も人口の多い高齢者層の投票率に比べて圧倒的に低くなっています。政治に参加しない層の意見は政策に反映されず、結果的に格差は是正されません。
- 自己責任論の蔓延: 自分の生活が苦しいのは「政治のせい」ではなく「努力不足」だと考える自己責任論が社会に浸透しています。これにより、制度的な問題ではなく個人の問題として片付けられ、格差是正を求める声が大きくならないのです。
今、生まれ始めた「変化の兆し」と残る「地方の壁」
この隠された格差に気づき、声を上げる国民は少しずつ増え始めています。オールドメディアの信頼感が薄れる中で、SNSなどを通じて新しい視点を提供する政治団体も生まれ、政治への関心を高める動きが出てきました。
しかし、地方では、長年の自民党の金権政治や既得権益に対する無関心層が依然として多くを占めています。「なんとかギリギリ暮らせているのだから、余計なことをして生活を崩したくない」「どうせ政治を変えることなんてできない、仕方ない」という諦めが、このステルス格差社会の維持を許してしまっているのです。
まとめ
「ステルス格差社会」とは、単に貧しい人が増えたということではなく、社会構造の変動と政治の無策、そして国民の無関心という三重苦によって、格差が不可逆的に固定化されてしまった状態です。
ステマのように巧妙に隠されたこの格差の存在に気づき、声を上げ、投票行動という最も基本的な政治参加を通じて構造を変えていくことこそが、私たちが「一億総中流」を取り戻すための唯一の道かもしれません。

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